古文書解読や和歌に使える 表現語法のパターンをなるべく簡単に解説

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古文書解読や和歌に使える 表現語法のパターンをなるべく簡単に解説
来世ちゃん
来世ちゃん

こんばんは~。
今回は「らむ」や「だに」といった昔の言葉の語法を、なるべく難しい言葉(副助詞や連体形など)を避けて解説します。
私がこういったページがあったらいいな~と思う部分をまとめてみました。

来世ちゃん
来世ちゃん

どれも頻出するワードばかりです。
事典代わりにこのサイトを使っていただけたら幸いです。

この記事はこんな方にオススメです。

  • この言葉の意味が分からない
  • いちいち辞典ひくのめんどくさい
  • この表現で合っているのか分からない
  • ラムって甘いやつですか?

「けり」

 今まで意識していなかったことに、今初めて気がついたという感動の気持ちが込められている場合が多い。

「~は・・・なりけり」というのは、「Aは実はBなのであった」の意。
俳句や和歌では強い切れ字を現わす。(!がつく感じ)

例)


花の色はうつりけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに (小野小町)
 (花の色は うつりけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに)

   小倉百人一首(9)

だいたいの句意)
桜の花はむなしく色あせてしまった。
春の長雨が降っていた間に。
・・・私の容姿もすっかり衰えてしまった。
生きていることのもの思いをしていた間に。

「花の色」とはいうまでもなく女性の容姿を暗示しているが、とりわけ「花」だけだと桜を示している。
「いたづらに」=無駄に・空しく

小野小町
小野小町

補足すると、下の句にあたる「わが身世にふるながめせしまに」のところは、”(桜が降る)”と”(身に振りかかる)”、さらに「長雨(ながめ)」と「眺め」と二重の掛詞(かけことば)を使っている。

一句で二重の掛詞を用いて、しかもめちゃくちゃ上手いとか・・・早く次の恋見つけろよ( ゚Д゚)
しかしながら、この句が評価されて小野小町の名は今でも有名なのだ。

「なり」

 大きく分けて二つのパターンがある。

①一つは断定の意味。
「・・・だ。」「・・・である。」

前述の「けり」と同じく、俳句や和歌では強い切れ字を現わす。(!がつく感じ)

例) (断定の方)


嵐吹く三室の山のもみぢ葉は竜田の川の錦なりけり (能因法師)
 (嵐吹く 三室みむろの山の もみぢは 竜田の川の 錦なりけり)

  小倉百人一首(69)

だいたいの句意)嵐の吹きおろす三室のもみじ葉は、竜田の川の錦なのだった。

②もう一つは伝聞、推定の意味。
「・・・と聞こえる。」「・・・だそうだ。」の意。

前述の「けり」と同じく、俳句や和歌では強い切れ字を現わす。(!がつく感じ)
歌以外にも、古文書では上記の意味両方ともよく用いられる。

例) (伝聞、推定の方)


わが庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり (喜撰法師)
 (わが庵いほは 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり)

  小倉百人一首(8)

だいたいの句意)
私の庵は都の東南にあって、このように心のどかに暮らしている。
なのに、私がこの世を辛いと思って逃れ住んでいる宇治山だと、世間の人は言っているようだ。

たつみ=辰巳角=東南の方角
この歌の「世をうぢ山と」の部分には、「宇治」と「憂」とを掛けている。

「こそ」+「~」

 文が「こそ」で終止せず、そのまま下に文が続く場合、
「・・・なのに、」「・・・けれども、」といった逆接の意味になる。

例)


しのぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで (平兼盛)
 (しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで)

  小倉百人一首(40)

だいたいの句意)
心のうちに堪えていたけれども、顔色や表情に出てしまっていたのだった。
私の恋は恋のもの思いをしているのかと、人が問うほどまでになって。

「色に出でにけり」が先にきて「人の問うまで」があとにくる。
これは倒置法を使っているのだが、和歌でこうしたものを用いると、並みの人なら稚拙な句になってしまうことが多い。
上手いなあ。

「さへ」

  ある事柄の上にもう一つ別の事柄を添加する。
「~はもちろんのことだが、・・・までも」の意味。

例)


夜もすがらもの思ふころは明けやらで閨のひまさへつれなかりけり (俊恵法師)
 (夜もすがら もの思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり)

  小倉百人一首(85)

だいたいの句意)
夜通しもの思いに耽っているこのごろは、夜がなかなか明けきれないので、つれない人ばかりが、寝室の隙間までもがつれなく思われるのだった。

先に述べた「けり」もこの歌に当てはまる。

「だに」

 程度の軽いものをあげて、言外により重いものを類推させる。
「・・・さえも、」の意。
命令や条件の文脈では、「せめて・・・だけでも、」の意味となる。

例)


恨みわびほさぬ袖だにあるものを恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ (相模)
 (恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ)

  小倉百人一首(65)

だいたいの句意)
恨んだ末にもう恨む気力も失って、涙を乾かす間もない袖さえ惜しいのに、まして、この恋ゆえに世間に浮名を流して朽ちてしまうであろう我が名がいかにも惜しいことです。

 また、戦国時代で織田信長の妹として有名なお市の方の辞世の句にも


さらぬだに打ちぬる程も夏の夜に別れを誘ふほととぎすかな (柴田勝家室)
 (さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜に 別れを誘ふ ほととぎすかな)

  出典不明

だいたいの句意)
それでなくても短い夏の夜が終わってしまった。
ほととぎすが誘うから、そろそろ旅立たなくてはならない。

小谷御前(お市)
お市

信長の妹として数奇な運命を辿った人物。
娘3人も戦国の荒波に翻弄されながらも強く生きた。

関連記事:和歌や俳句でよく詠まれる「ほととぎす」にはどのような意味が隠されているのか

「あふ」+打消し

「・・・完全にはしきれない。」の意。
「取りあへず」もこれに該当する。

例)


山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり (春道列樹)
 (山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり)

  小倉百人一首(32)

「らし」

推量の助動詞。
「・・・らしい。」の意。
少し難しいが、確実な根拠に基づいた推定を表す。
その場合根拠となる叙述がともに示されているのが普通。

例)


春すぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山 (持統天皇)
 (春すぎて 夏にけらし 白妙しろたへの 衣ほすてふちょう あま香具山かぐやま

  小倉百人一首(2)

だいたいの句意)
春が過ぎて夏が来てしまっているらしい。
夏になると真っ白な衣を干すという天の香具山なのだから。

白妙(しろたえ)とは、コウゾ類の樹皮で織った純白の布。
かつては「衣」とくると「白妙!」といったような枕詞(まくらことば)でよく用いられた。

てふ(ちょう)とは、「といふ=言う」のつづまった形。
てふに関しては後述する。

天の香具山は地名で固有名詞。
奈良県橿原市にある。

「めり」

推量の助動詞。
「・・・らしい。」の意。
さきほどの「らし」とよく似ているが、これは視覚にもとづいた推量を表すの本来の形だが、それが転じて主観的な推量を表すようになった。
「・・・のようだ。」「・・・と思われる。」の意。

例)


契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋もいぬめり (藤原基俊)
 (契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり)

  小倉百人一首(75)

だいたいの句意)
お約束してくださいました「私を頼みとせよ」という恵みの露のようなお言葉を命とも頼んできましたが、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。

補足すると、作者の藤原基俊の子息は維摩ゆいま絵の講師(仏典の講師)をしているのだが、維摩絵の講師は毎年秋の内に決められるため、今年の秋もまた、息子の講師実現がないまま秋が虚しく過ぎていくようだ・・・。という意味。

「べし」

推量の助動詞。
「・・・らしい。」の意。
前に述べた「らし」や「めり」とよく似ているが、これは推量・意思・可能・当然・適当・勧誘・義務・命令などさまざまな意味で用いられる。

推量の場合は、「きっと・・・だろう。」あるいは「・・・に違いない。」の意で、強い確信を持った推量を表す。

歌でなくとも古文書で数多く散見されるのはこれ。
(ベク、ベシ)」と書き、非常に汎用性が高い。

「ぬ」

動作・作用が完了したことを表す。
「・・・てしまう。」あるいは「・・・してしまった。」の意。

例)


母北の方、おなじ煙にものぼりなむと泣きこがれて給ひて・・・ (紫式部)
 (同じ煙にものぼってしまうことだろう)

  (源氏物語 桐壺)

動作・作用の確かめや強めを表す。
「きっと・・・」「たしかに・・・」の意。

例)


今度のいくさには相違なく勝ちぬとおぼゆるぞ
 (きっと勝つ)

  (平家物語 巻七「願書」

動詞の「あり」や形容動詞についた場合は経調・確述の気持ちが含まれている。
「ありぬ」など。

日本語ややこしすぎだろ・・・

打消しの意味。(「ず」の連体形)

例)そうはさせぬ

「ぬべし」

完了の助動詞「ぬ」を推量系にしたもの。

「・・・してしまうだろう。」「・・・してしまっただろう。」または「・・・してしまおう。」の意。

例)


妹が見し楝の花は散りぬべし
 いもが見し あふちの花は 散りぬべし)

  万葉集 巻5「798」

楝はセンダンのこと。

栴檀(センダン)01
自然風の自然風だより様より 『涼しげな花・栴檀(センダン)』からお写真を拝借しました。
栴檀(センダン)02
自然風の自然風だより様より 『涼しげな花・栴檀(センダン)』からお写真を拝借しました。

「らむ」

これも推量系。

眼前に無い事実
「今ごろ・・・しているだろう。」
察する視覚外推量を表す。

例)


このたびはぬさもとりあへず手向山紅葉の錦神のまにまに (菅家)
 (このたびは ぬさもとりあへず 手向山たむけやま 紅葉の錦 神のまにまに)

  小倉百人一首(24)

だいたいの句意)
この度の旅は幣(ぬさ)も捧げることはできない。
さしあたって手向けの山の紅葉の錦を幣として捧げるので、神の御心のままにお受け取りください。

どうでもいいことだが、ガキの頃は「胸の谷間に」と間違って覚えていた。

眼前にある事実についてその原因や理由を
「~なので、・・・なのだろう。」
察する視覚内推量を表す。

例)


吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ (文屋康秀)
 (吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ)

  小倉百人一首(22)

だいたいの句意)
吹くや否や秋の草木がしおれるので、なるほど山風を嵐というのであろう。

「むべ」=なるほど

この歌は、山と風を合わせると漢字の「嵐」になるという言葉遊びのようなものも感じられる。

「てふ」

 格助詞の「と」に動詞の「言う」が合わさったもの。
「・・・という~」の意。
“ちょう”と読む。
平安時代になってこうした表現が一般的に用いられるようになった。

例)


恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか (壬生忠見)
 (恋すてふちょう わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか)

  小倉百人一首(41)

だいたいの句意)
恋しているという私の噂が早くもたってしまったのだった。
誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめていたのに。

「まだき」=早くも

この歌も倒置法が使われている。

壬生忠見のこの歌と、先述した平兼盛の歌が同じ歌の会で相争い、時の天皇の発言が勝敗を分けたという逸話はあまりにも有名。

来世ちゃん
来世ちゃん

ご覧いただきありがとうございます。
お役に立てましたら光栄です。
他にも使用頻度の高い表現語法があれば、随時このページに追加していくつもりです。

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コメント

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