今回は古文書でたまに見かける「ー ー」の謎に迫ります。
どうしてこのような記号?ができるのでしょうか。
また、切り封や上書についても解説しています。
昔は紙によって家の格が問われた
私たちが普段何気なく使っている紙。
現在はA4サイズのコピー用紙500枚を、500円程度で買える時代です。
便利な時代になったものです。
しかし、数百年前までの紙は、非常に高価で貴重なものでした。
紙の種類や形式も多岐に渡り、用途によって使い分けていました。
紙の種類でもっとも格式の高いものが一枚物(一通物)というものです。
上杉七免許? 足利義輝が上杉謙信に宛てた書状から見えるものとは
一通物は主に将軍家や大名が礼状・安堵状・判物・誓詞(起請文)などに用いた上質で格式の高い紙でした。
一方、やや格式が低いとされるものが折り紙(おりがみ)です。
【古文書から読み解く】浅井長政討伐に燃える織田信長の決意と意気込み
折り紙とは、一通物の紙を横に半分に折り、上下をわけることで用紙を節約した感じのものをいいます。
折り紙は主に、目下の人に宛てたものが多く、やや略式な扱いでした。
質の悪い紙を乱発する大名は、経済力が乏しいのかと軽くみられてしまう時代でした。
大名の家格が高いほど、楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)、鳥子(とりこ)といった上質な紙を仕入れて見栄を張る必要があったのです。
墨引きとは何か
端的に申しますと、墨引きとは書状の封じ目のことをいいます。
現代の手紙では「〆」と書くのが一般的ですよね。
こちらの画像をご覧ください。
この画像の右下部分を拡大すると「ー ー」と記されているのがおわかりでしょうか。
これが墨引きの跡になります。
今回は、織田信忠が弟の北畠信雄に宛てたこの書状で、どうしてこのように「ー ー」がつくのかを説明したいと思います。
この書状はいわゆる折り紙です。
折り紙は先に述べたやや略式の傾向にある文書です。
書状の結び方にもいろいろありますが、今回は切封上書(きりふううわがき)というパターンでご説明します。
なぜ「ー ー」となるのか 折り紙の場合(切封上書)
乱筆でお恥ずかしい限りですが、実際に紙を折った際に、墨引きがどのようになるのかを再現しようと思います。
今回は実際の書状と縦横比が同じくらいのA4用紙を使用しました。
天正元年(1573)八月二十三日付け織田信忠書状+釈文
1.まず、用紙を横へ半分に折ります。
2.上半分の部分に適当に文字を書きます。
(あっ、下のランチョンマットのシミは、おもにコーヒーでついたものですので大丈夫です)
3.紙を開き、右端をハサミ等で下から上に8割くらい切ります。
4.再び半分に折り、左端から谷折りにします。
今回は太めに折ります。
5.最後まで折ると、このようになるかと思います。
6.右端の切った部分を、書状の左へ巻くようにして包んでいきます。
7.巻き終わると、下から紙を通して、このように留めます。
8.これを裏返します。
9.右側に縦に線を引きます。
これが墨引きの正体です。
10.続いて適当に何か書いてみましょう。
「ーーー虎御前山より
信重
御中進覧」
11.これで一応の書状は完成しました。
え、こんなので本当に完成?
皆さんお疑いのようですね。
完成したように見えないのは、恐らく臨場感が足りないからです。
もっと織田信忠をイメージしてください。
12.織田信忠「虎御前山なう」
(googleストリートビューより)
ほらね?
13.虎御前山から使いの者が書状を寄こしてきました。
兄からのようです。
早速開いてみましょう。
14.恐ろしく汚い字ですね。
この書状を180度回転させると…
15.このように墨引きの跡が残りました。
実際の書状と比べてみましょう。
16.紐の部分はこのようになっています。
まとめ
激しく汚い字でしたが、ご理解いただけたでしょうか。
今回の文書のように、弟に個人的に宛てた何の効力も持ち得ない書状は、このような結び方をする場合があります。
別の結び方も需要がありましたら書こうかと思います(^-^;
そうそう。
今回のように封紙を用いないで、本紙の一部を切って巻く方法を「切り封」といいます。
上書(うわがき)とは、書状などの表面に宛名等を書いている文書のことを指します。
切り封部分
上書部分
ご覧いただきありがとうございました!
昔から字の下手さにコンプレックスがあって、某通信講座でボールペン習字を受講したことがあります。
しかし、私の熱意が足りずに3日で辞めてしまいました(ノ∀`)
参考文献:
林秀夫(1999)『音訓引 古文書大字叢』柏書房
宍倉佐敏(2011)『必携 古典籍・古文書料紙事典』八木書店
など