戦国時代定番の贈り物と数え方②繊維類、日用品、貨幣、その他編

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戦国時代定番の贈り物と数え方
らいそくちゃん
らいそくちゃん

前回に続き戦国時代定番の贈り物と数え方について解説します。
実際の史料を進物に絞って読み、複数回登場したものを挙げています。

らいそくちゃん
らいそくちゃん

今回は繊維類、日用品、貨幣、その他編です。
食品、鳥類・猛禽類、武具・馬は前回の記事をご覧ください。

  1. 戦国時代の進物と傾向
  2. 戦国時代定番の贈り物 繊維類
    1. 白布 一端(一反)
    2. 羽織(はおり)・胴服(道服、筒服)(どうふく) 一つ
    3. 呉服(ごふく)・小袖(こそで) 一重、一つ
    4. 肩衣(かたぎぬ)・袴(はかま)
    5. 緞子(どんす) 一端(一反)
    6. 縮羅(しじら) 一端(一反)
    7. 木綿・木棉(もめん) 一端 一把
    8. 縮(ちぢみ) 一端
    9. 唐糸(からいと) 一斤
    10. 絹綿(きぬわた) 一把 一疋
    11. 板物(いたもの) 一端(一反)
    12. 緒(お)
    13. 金襴(きんらん)・銀襴(ぎんらん) 一端(一反)
    14. 青皮(あおかわ・せいひ)
    15. 紙子・紙衣・帋子(かみこ)
    16. 虎皮(とらかわ)・豹皮(ひょうかわ) 一枚
    17. ラッコの皮 一枚
    18. 氈(おりかも) 一枚
  3. 戦国時代定番の贈り物 日用品
    1. 料紙(りょうし)・礼紙(らいし)・懸紙(かけがみ) 一枚・一帖・一軸・一巻・一冊・一舗など
    2. 墨(すみ) 一丁・一挺
    3. 蝋燭(ろうそく) 一箱・一匁
    4. 剃刀(かみそり) 一双
    5. 扇(おうぎ)・扇子(せんす) 一本 一箱 一明(いちめい)
    6. 足袋(たび)・雪駄(せった) 一足
    7. 鬚籠(ひげこ) 一つ
    8. 絛(とう) 一筋
    9. 錫瓶(すずびん)・瓶子(へいし)・提(ひさげ)
    10. 針(鍼) 一箱
    11. 漆・㭍(うるし) 一桶
  4. 戦国時代定番の贈り物 貨幣
    1. 黄金 一枚 一両
    2. 金子(きんす) 一枚
    3. 銀子(ぎんす)一匁 一枚 一両
    4. 青銅 一疋(いっぴき)
    5. 孔方(こうほう) 一疋(いっぴき)
    6. 鳥目(ちょうもく)・鵝眼(ががん) 一疋
  5. 戦国時代定番の贈り物 その他
    1. 巻数(かんじゅ・かんず)・御守(おまもり) 一巻(いっかん)
    2. 牛王札(ごおうふだ)
    3. 菩薩(ぼさつ)・縁仏(えんぶつ)
    4. 大麻(おおぬさ)・小麻(こぬさ)・熨斗鮑(のしあわび) 一折
    5. 屏風(びょうぶ) 一隻(いっせき)
    6. 香水
    7. 沈香・沉香(じんこう) 一包(いっぽう)
    8. 薫物・炷物(たきもの)
    9. 薬・藥(くすり) 一包
  6. まとめ

戦国時代の進物と傾向

 記事を書くにあたって調べた史料はおよそ2500点。
織田信長をはじめとする大名が宛てた書状に比重を置いています。
従って、下級武士・百姓・門跡たちが受け取った進物は調べておりません。
予めご了承ください。

『織田信長文書の研究 上・下・補遺』奥野高廣氏著(吉川弘文館)1813点。
『戦国大名の古文書〈西日本編〉』山本博文,堀新,曽根勇二氏著(柏書房)202点。
『戦国大名の古文書〈東日本編〉』山本博文,堀新,曽根勇二氏著(柏書房)190点。
『言継卿記』のほか5点ほどの史料を参照。
詳細は当記事最下部の参考文献をご覧ください。

なお、例文で頻繁に登場する「贈り給い」という表現は、「御贈り下さり」という意味です。

戦国時代定番の贈り物 繊維類

白布 一端(一反)

 文字通り、染色が施されていない白い布のこと。
青苧あおそなどの麻苧あさおを原料とする布。

白布弐百端

『相良頼房宛(年次不明)七月二十三日付石田三成書状』

画像の文字は「白布弐百端」

羽織(はおり)・胴服(道服、筒服)(どうふく) 一つ

 衣服や甲冑の上から羽織はおる衣類で、丈が短い。
室町時代後期頃から用いられたが、この頃は羽織はおりとは呼ばず、「胴服(どうふく)」と呼ぶのが一般的であった。
もとは公卿や大納言以上の人物が家庭で内々に着た上衣であったが、のちに道中着となり、さらに変化して今の羽織となった。
名の由来は文字通り「羽織る」という動詞から。

羽織三つ進上

『徳川秀忠宛(慶長三年)十月三日付結城秀康書状』

道服二進入(まいらせいり)候

『安藤直次宛(年次不明)十一月二十六日付細川忠興書状』

画像の文字は「道服(どうふく)二進入まいらせいり候」

「就上洛筒服到来、誠以感悦候畢」
上洛に就きて胴服到来、誠に以て感悦に候いおわんぬ
『大和法隆寺東寺宛(天正七年)二月二十六日付織田信長黒印状』

「猶々、彼西より為進上とうふく被参候、御執着被成由」
尚々なおなお、かの西より御進上として胴服参られ候。御祝着なさるるの由
『大和法隆寺宛(天正七年)三月十八日付一雲斎針阿弥書状』

呉服(ごふく)・小袖(こそで) 一重、一つ

 呉服は主に和服のことを指す。
古くは古代中国の呉から伝来した織り方によって作られた反物に由来し、綿織物や麻織物を意味する太物(ふともの)に対し、絹織物を意味する語として使われるようになった。
やがて太物も含む和服の総称として使われるようになった。

小袖は着物の元となった衣装の一つ。
袖口の開きが大きく、袖丈一杯まで開いている袖の形状を大袖と呼ぶのに対し、小袖は袖口の開きが狭い。
桃山期に入ると豪華な打ち掛け型の小袖が流行した。

2020年度NHK大河ドラマ「麒麟がくる」に登場した駒が着ていた小袖が記憶に新しい。

呉服一重、小袖二

『吉川広家宛(年次不明)十二月二十六日付大久保忠隣書状』

画像の文字は「呉服一重 小袖二」

小袖壱ツ

『豊前承天寺宛(年次不明)十一月二十二日付黒田如水書状』

画像の文字は「小袖壱ツ」

肩衣(かたぎぬ)・袴(はかま)

 袴(はかま)は下半身に着用する一般的な衣類のこと。
現在の一般的な袴は馬上袴と呼び、前後二枚の台形状の布の斜辺下半分を縫い合わせ、キュロットスカートのような形状をしたものを指す。
足を入れてもゆったりしているため、馬乗りの武士に愛用された。

肩衣(かたぎぬ)は袖がない短い上着のこと。
しかし、戦国時代当時の肩衣は、小袖・袴の上に補助衣的に着用したようだ。
なお、袷肩衣(あわせかたぎぬ)とは、肩衣に裏地をつけて仕上げたもので、重量感・高級感のあるものを指す。

「為祝儀、太刀一腰、銀子三百両、幷端午五、肩衣袴、彼是懇喜悦之至候」
祝儀として、太刀一腰、銀子三百両、並びに端午たんごの(端午の節句)帷子(かたびら)五、肩衣・袴(かたぎぬ・はかま)、かれこれ懇ろに喜悦の至りに候。
『本願寺顕如宛(天正十年)四月二十五日付織田信長黒印状』

「為重陽之祝詞、使者特小袖、袷肩衣、袴送給候、懇志寔幾久胎然候」
重陽ちょうよう(重陽の節句)の祝詞として、使者特に小袖、袷肩衣(あわせかたぎぬ)、袴を送り給い候。懇志誠に幾久しく胎然に候。
『本願寺顕如宛(天正八年)九月八日付織田信長黒印状』

緞子(どんす) 一端(一反)

 繻子織(しゅすおり)地に繻子織の裏組織で模様を織り出した織物。

緞子イメージ

緞子イメージ

多くの場合、経糸たていと緯糸よこいとにそれぞれ色の違う練り糸を使って、五枚繻子(しゅす)で地と模様を織り出すもので、厚地で光沢があり、どっしりとした高級感がある。
金箔や金糸を用いて模様を織り出す金襴きんらんと並んで、高級織物の代名詞とされる。

仍剃刀十双、緞子二端

『甲斐快川紹喜宛(推定永禄八年)十一月七日付け斎藤龍興書状』

画像の文字は「仍剃刀十双、緞子二端」

縮羅(しじら) 一端(一反)

 縬とも書く。
推古天皇の時代、古代中国から伝わったたて糸とよこ糸を配して表面に凹凸をあらわした織物のこと。
平織の中に「たたえ」(3本引き揃えた糸)を2本、たて縞のように織り込み、糸の張力を利用して独特のしぼを出す。
絹と木綿がある。
強度があり今日でも高級品として知られる。

縮羅五十端拝領

『蜂須賀正勝・黒田孝高宛(天正十二年)十一月五日付小早川隆景書状』

画像の文字は「縮羅(しじら)五十端拝領」

縮羅十端

『中大路甚介宛(文禄三年か四年)三月一日付け前田玄以書状』

木綿・木棉(もめん) 一端 一把

 ワタの種子から取れる繊維。コットンのこと。
伸びにくく丈夫であり、吸湿性があるため、衣類として重宝された。
日本では中世まで大陸からの輸入に頼っていたが、戦国時代末期頃から栽培され始め、やがて全国に流通した。
三河国は産地として有名である。

「殊為御音信、木布二端贈被懸御意候、御懇志之儀、難申謝候」
殊に御音信として、木布(木綿)二端贈り懸けられ候。御懇志の儀、申し謝り難く候
『大和法隆寺宛(天正七年)三月十八日付一雲斎針阿弥書状』

「上様就被成御上洛、為御音信、綿十把、百御進上候、則致御披露候処ニ」
上様御上洛成さるるに就きて、御音信として、綿十把、百御進上候。即ち御披露致し候ところに
『大和法隆寺東寺宛(天正七年)九月二十日付一雲斎針阿弥書状』

縮(ちぢみ) 一端

 布面に細かい波状のちぢれを表した縮織物のこと。
緯糸ぬきいとに強くった糸を用いて織り、これを練って、表面に細かいしぼを生じさせた。
材質は絹・綿・麻などがある。
絹縮は通常縮緬(ちりめん)を指す。

縮五端令進上候

『本田親貞宛(年次不明)四月十二日付松浦鎮信書状』

唐糸(からいと) 一斤

 中国大陸から輸入した絹糸、または中国伝来の絹織物のこと。

「随而唐糸五斤紅、豹皮一枚進之候」
従って、唐糸五斤(紅)、豹皮一枚、これをまいらせ候
『上杉輝虎宛(永禄十一年)七月二十九日付織田信長書状』

絹綿(きぬわた) 一把 一疋

くず繭からつくる真綿の一種。
シルク・真綿のこと。
肌触りがよく、防湿・保湿性に優れることから冬場に珍重される。

「兼又綿(絹綿のこと)廿把給候、何様之御心遣、却而如何候」
兼ねてまた、綿二十把給い候。いかようの御心遣い、かえっていかがに候
『(年次不明)十月二十七日付松永久秀書状』

「追而絹五疋到来、懇志悦入候」
追って絹五疋到来、懇志悦び入り候
『長連龍宛(天正八年)九月一日付織田信長朱印状』

板物(いたもの) 一端(一反)

 板に巻いた反物。
木の板を芯にして平たく畳んだ絹織物のこと。

「為年頭之慶事、板物表薄、五端祝着ニ候」
年頭の慶事として、板物表(薄)五端、祝着に候
『山城狛左馬進宛(元亀四年)正月十五日付織田信長黒印状』

緒(お)

 細長い繊維状のひものこと。

「為音信、金子弐枚幷紅緒到来、悦入候」
音信として、金子きんす二枚並びにくれないの緒到来、悦び入り候
『大和法隆寺東寺宛(天正七年)三月十日付織田信長黒印状』

金襴(きんらん)・銀襴(ぎんらん) 一端(一反)

 金襴(きんらん)は、琥珀や繻子(しゅす)、紗などの地組織に金切箔または金糸などで紋様を織り出した色鮮やかな織物。
絹や綿がある。
戦国末期の天正年間に中国大陸より堺へ伝わり、西陣織の原型となった。
なお、銀襴は銀糸で織ったものを指す。

「殊金襴一端赤地、令祝着候」
殊に金襴一端(赤地)、祝着せしめ候
『山城大徳寺宛(元亀四年)六月五日付織田信長黒印状』

青皮(あおかわ・せいひ)

①馬の皮のこと。
表面が青色を帯びた牛の鞣革で、室町時代の末から江戸時代にかけて武具の革所かわどころひつの覆いなどの細工物に使用された。

②柑橘系果物が成熟する前に剥ぎ、乾燥させた皮のこと。
漢方に使用される。

「随而青皮一枚如御書中到来、喜悦候」
従って青皮一枚御書中の如くに到来、喜悦に候
『(元亀四年)正月二日付穴山信君書状』

紙子・紙衣・帋子(かみこ)

 紙で作った衣服。
はり合わせた和紙をよくもみ、柿渋を塗って仕上げたもので、防寒用の胴着や下着に用いられた。
木版で美しい模様をつけ、上着にしたものもある。
上質な紙を生産する日本独特の文化のようだ。

「将亦、嘉例之帋子到来候、殊当年者二越候」
はたまた、嘉例の紙子到来。殊に当年は二つ越し候
『某宛(天正三年)九月五日付織田信長黒印状』

虎皮(とらかわ)・豹皮(ひょうかわ) 一枚

 トラやヒョウの毛皮。
中世の時代には李氏朝鮮が琉球王国にたびたび進物として贈っているようだ。
日本でも主に九州の宗氏や大内氏が進物として将軍に献上している。
非常に高価なもので、戦国時代末期頃には銀で五十両、米で十八石ほどの価値があったようだ。
朝鮮の役の際、加藤清正が虎退治をしたという逸話があるが真実かは疑わしい。

「随而唐糸五斤紅、豹皮一枚進之候」
従って唐糸五斤(紅色)、豹皮一枚これをまいらせ候
『上杉輝虎宛(永禄十一年)七月二十九日付織田信長書状』

「為祝儀被申越候、胴服一、虎革喜悦候」
祝儀として申し越され候。胴服一、虎皮喜悦に候
『織田信張宛(天正五年)五月二十日付織田信長判状案』

ラッコの皮 一枚

 あのかわいいラッコのこと。語源はアイヌ語からきている。
古代中国の読みで「海獺」。他に猟虎・海虎・落虎・浪虎などと記された。

「追而啓之候、任見来、浪虎皮十枚進献之、寔軽微之至ニ候へ共」
追って啓し候。見来に任せて、ラッコの皮十枚これを進献す。誠に軽微の至りに候へども、
『織田信長宛(天正五年)閏七月二十日付秋田愛季書状写』

氈(おりかも) 一枚

 毛織の敷物。

「殊虎革三枚、氈一、誠懇情之趣忻然候」
殊に虎皮三枚、氈(おりがも)一、誠に忻然きんぜんに候
『本願寺顕如宛(天正八年)八月二日付織田信長黒印状』

戦国時代定番の贈り物 日用品

料紙(りょうし)・礼紙(らいし)・懸紙(かけがみ) 一枚・一帖・一軸・一巻・一冊・一舗など

 当時の紙は大変貴重な品で、品質もさまざまであった。
美濃紙(みのがみ)・鳥子紙(とりのこがみ)・杉原紙(すぎはらがみ)などが有名。
書状には本紙のほかに礼紙(らいし)や懸紙(かけがみ)を添えることがある。

礼紙(らいし)は本紙の下に本紙と同じ紙を一枚から数枚重ねるもの。
先方に敬意を示すためのものだが、時には返信用に使用されたり、追而書おってがき猶々なおなお書き=追伸部分)が書かれる場合もある。

懸紙(かけがみ)は包紙つつみがみ、表巻、巻紙のことで、本紙と礼紙とを重ねて折った上をさらに包んだ一枚の紙をいう。
室町時代に入ると一枚の紙を本紙・礼紙・懸紙と三部分に切断して使用することも行われだした。

数える単位は料紙の形態によって異なる。
巻子本かんすぼんは軸または巻。
画帖装がじょうそうや束になったものは帖。
袋綴ふくろとじ列帖装れっちょうそう粘葉装でっちょうそう、結びとじなどは冊。
畳物は舗。
一枚物は枚の単位を用いる傾向にある。

「随而杉原十帖被懸御意、過当候」
従って杉原(紙)十帖を御意ぎょいに懸けられ、過当に候
『(元亀二年)十二月七日付佐久間信盛書状』

「将又料紙廿帖進献候、憚多存候」
はたまた、料紙りょうし二十帖を進献候。はばかり多く存じ候。
『(元亀三年)七月四日付稲葉一鉄書状』

墨(すみ) 一丁・一挺

 字を書くときに使う黒色の溶液のこと。
すすにかわ、香料などを混ぜ合わせ、練り固めて作る。
他にも、すずりを水に溶かして作ったものも同じく「墨」と呼ばれる。

昔の書簡を検証する際、本物かどうかを特定するのに、墨の成分分析も重要な手段である。

「墨一丁、送之」
墨一丁、これを送り
『永禄九年二月五日条言継卿記』

蝋燭(ろうそく) 一箱・一匁

 蠟燭とも書く。
灯芯草いぐさ綿糸めんしを上からろうでコーティングして固めた灯火用具のこと。
平安時代には松脂まつやにをろうそくにしていたこともあったようだ。
電気が伝わるまで、何世紀にもわたってろうそくが使用された。

なお、ろうとはハゼノキの果実、あるいはうるしの果実が主な主成分で、それを臼で皮と実を分離させ、皮を蒸らして圧縮して作る。

個人的なことだが、以前「ザ!鉄腕!DASH!!(日本テレビ)」で、ハゼの実から石鹸を作っていたのが興味深かった。(蝋燭ではないが製法が似ていた)

山鳥蝋燭到来

『猪俣邦憲宛(天正十八年)正月十六日付け北条氏政書状』

画像の文字は「山鳥、蝋燭到来」

「為音信、十、蝋燭一箱、塩引五到来候」
音信として、帷子かたびら十、蝋燭一箱、塩引しおびき五到来候
『(天正六年)六月二十三日付織田信長判状写』

剃刀(かみそり) 一双

 髪や髭を除去する刃物のこと。
旧石器時代から世界中の文明で用いられた。
日本ではサメの歯や貝殻、石を剃刀として用いた。

剃刀十双

『甲斐快川紹喜宛(推定永禄八年)十一月七日付け斎藤龍興書状』

画像の文字は「剃刀十双」

扇(おうぎ)・扇子(せんす) 一本 一箱 一明(いちめい)

 扇子 (せんす) のこと。
あおいで風を起こし涼をとる道具であるが、昔はおもに儀礼装飾用として使われた。

「当宮修正牛玉札香水、幷扇子祝着之至候」
当宮修正の牛王札ごおうふだ、香水、並びに扇子祝着の至りに候
『(年次不明)正月二十三日付斎藤龍興書状』

「猶以五明、過分畏悦之至候」
尚以て五明(扇子)、過分畏悦の至りに候
『(元亀四年)柴田勝家書状』

足袋(たび)・雪駄(せった) 一足

 足袋(たび)は足に直接履く衣類の一つで、つま先が親指と他の指の部分の2つに分かれているもの。
蹈皮、あるいは踏皮とも書く。

雪駄(せった)は竹皮草履たけのかわぞうりの裏面に皮を貼って防水機能を与え、皮底のかかと部分に尻鉄がついた上質な履物のこと。

「為見舞、使僧殊折一並二、たひ一足到来」
見舞いとして、使僧殊に折一、並びに帷子かたびら二、足袋(たび)一足到来
『尾張小松寺宛(元亀元年)六月十二日付織田信長書状写』
※折一(ひとおり・いちのおり)は連歌用語か

「就在陣音問、特蹈皮到来、喜悦之至候」
在陣につき、音問、特に足袋(たび)到来、喜悦の至りに候
『山城慈照寺宛(天正元年)十二月四日付織田信長黒印状』

鬚籠(ひげこ) 一つ

 竹や針金を編んで、編み残しの端をひげのように延ばしたかご。
工芸品。

木練之鬚籠弐到来、祝着候

『(年次不明)九月十五日付明智光秀書状』

木練こねりの鬚籠(ひげこ)二到来、祝着に候

絛(とう) 一筋

 平打紐(ひらうちひも)のこと。

日本伝統の工芸品で主に細い絹糸、または綿糸を組み上げた紐を”組み紐”といい、四角い「角打紐かくうちひも」と、平たい「平打紐ひらうちひも」、丸い「丸打紐まるうちひも」の三種類に分かれる。

日本には仏教とともに大陸から伝わった。
中世には武具、着物、茶道具など宗教以外の用途でも使われた。

「殊絛五筋到来、懇切候」
殊に絛(とう)五筋到来、懇切に候
『大和岡周防守宛(天正元年)九月十一日付織田信長書状写』

錫瓶(すずびん)・瓶子(へいし)・提(ひさげ)

 錫瓶(すずびん)は錫製で作られた器のこと。
金属独特の匂いがほとんどなく、時代によっては金・銀に次ぐ高級品であった。
また、抗菌性があり、さびや腐食に強い。
朽ちない金属は繁栄を願う縁起物として人気があった。

瓶子(へいし)は酒などを入れる細長く口の狭い徳利とくりのこと。

提(ひさげ)は注ぎ口と取っ手のついている銚子ちょうしのこと。
かんにする酒器として使用されたほか、薬作りにも用いられた。

江戸時代以降、瓶子の大量生産が可能になり、やがて瓶子と銚子が混同して呼ばれるようになった。
現在、銚子は一般的ではなく、「お銚子一つ」と頼むと徳利が出てくる。

「殊錫瓶幷提如書中見来、祝着候」
殊に錫瓶(すずびん)並びに提(ひさげ)、書中の如くに見来(到着)、祝着に候
『(天正三年)六月七日付織田信長印判状』

「依而二羽伊予、幷鈴ニ、大小送給候」
依ってはいたか二羽(伊予産)、錫(すず)二、大小贈り給い候
『和泉松浦肥前守宛(天正三年)十二月十三日付織田信長書状写』

針(鍼) 一箱

 日本でも古くは石器時代から存在した日用品。
文明の進歩とともに青銅針→鉄針→銅針→鋼針と針も進化していった。
平安時代頃に裁縫で使われ始め、やがて市で針が売られるようになった。

「釘」と記される場合は、針の当て字である可能性もある。

「将又、釘十箱到来候」
はたまた、針十箱到来候
『武藤舜秀宛(天正四年)十月二十二日付織田信長黒印状』

漆・㭍(うるし) 一桶

 ウルシ科の落葉高木から採取した樹液のこと。
主成分のウルシオールが接着剤となり、これを利用して工芸や建築、武具に利用された。
能登の輪島塗、紀伊の根来塗などが有名。
「㭍」は漆の異体字。

「為音信、㭍一桶、蝋燭一箱幷塩曳五到来、遥々懇志喜入候」
御音信として、漆一桶、蝋燭一箱並びに塩引き五到来、はるばる懇志喜び入り候
『(年次不明)十二月二十七日付織田信長印判状写』

戦国時代定番の贈り物 貨幣

黄金 一枚 一両

 金の貨幣の総称。大判・小判。
一枚は十匁。

黄金拾両

黄金拾両

「仍太刀一腰、黄金拾両到来㐂入候、」
仍って太刀一腰、黄金十両到来、喜び入り候
『島津義久宛(天正十年)十一月二日付足利義昭御内書』

「信長江逸物之名馬御進上、祝着不斜候、殊拙者方へ黄金三両、御懇慮之至」
信長へ逸物の鷹、名馬御進上、祝着斜めならず候。殊に拙者方へ黄金三両、御懇慮の至り
『奥州伊達輝宗宛(天正三年)十月二十五日付松井友閑副状』

金子(きんす) 一枚

 金の貨幣のこと。

金子五十まい

『浅野長政宛(文禄二年)八月二十八日付加藤光泰書状写』

銀子(ぎんす)一匁 一枚 一両

 銀貨。多くは丁銀(ちょうぎん)を指す。長さ約9センチメートル、重さ約160グラムの長円形の銀塊で、紙に包み、封をしたまま用いて「銀何枚」と数える。贈答などに用いた。
銀子一枚は約十両。一両が四匁五分。百両は四十三匁。銀百両は銭三十貫ほど。
当時の米相場では二十~五十石の価値を持っていた。

銀子弐匁

『信濃信綱寺宛(慶長八年)三月十五日付真田昌幸書状』

画像の文字は「銀子弐匁」
「尚々銀子弐匁、目出珍重ニ候」
尚々、銀子二匁、目出珍重に候。

銀子拾枚令進之候(これをしんぜじめそうろう)

『(天正四年)八月三日付毛利輝元書状』

画像の文字は「銀子拾枚令進之候(これをしんぜじめそうろう)」

「為祝儀、太刀一腰、銀子三百両、幷端午五、肩衣袴、彼是懇喜悦之至候」
祝儀として、太刀一腰、銀子三百両、並びに端午たんご帷子かたびら五、肩衣かたぎぬはかま、かれこれ懇ろ喜悦の至りに候
『本願寺宛(天正十年)四月二十五日付織田信長黒印状』

青銅 一疋(いっぴき)

 銭の異称。進物では主に銭のことを指す。

青銅百疋進之候

『市川経兼宛(推定天正四年か五年)正月二十八日付赤井直正書状』

孔方(こうほう) 一疋(いっぴき)

 銭の異称。百疋で一貫文。
もとは方形の穴、四角い穴という意味。

孔方万疋

『安芸周伯恵雍宛(天正十年)四月二十八日付吉川元長書状』

画像の文字は「孔方百疋」

鳥目(ちょうもく)・鵝眼(ががん) 一疋

 銭の異称。穴の開いている銭。
一疋は十文。百疋で一貫文。
疋は金銭以外でも価値の高い絹布、牛、馬などを数えるときに用いられる。

「為御音信鳥目百疋送給候」
御音信として、鳥目(ちょうもく)百疋送り給い候
『(天文元年)十二月二十六日付内藤国貞書状』

太刀一腰、鵝眼万疋到来喜入候也」
太刀一腰、鵝眼(ががん)万疋到来、喜び入り候也
『(天正五年)十月二十日付足利義昭御内書』

戦国時代定番の贈り物 その他

巻数(かんじゅ・かんず)・御守(おまもり) 一巻(いっかん)

 僧侶が願主の依頼で読誦どくじゅした経文きょうもんなどの題目・回数などを記した目録のこと。
「牘数」と記される場合もある。
木の枝などにつけて願主に送る。
もとは仏教だったが、やがて神道にも取り入れられた。

巻数、守

『妻沼歓喜院聖天院宛(推定天正十二年)三月八日付成田氏長書状』

「就当表在陣、申勝軍有御祈念、早々是迄、巻数守被懸御意候、珍重存計候」
おもて在陣につき、勝軍申し御祈念有り、早々にこれまで、巻数(かんず)・守り、御意ぎょいに懸けられ候。珍重と存ずばかりに候。

なお、巻数の「巻」および数える単位の「巻」はこのように記される場合もある。

巻数の難しい漢字

『山城大徳寺尊信宛(天正元年)九月七日付織田信長黒印状』

牛王札(ごおうふだ)

 牛王宝印(ごおうほういん)のこと。
神社や寺が出す刷り物の神符で、再厄除けとして使用された。
中世以降はこの神符の裏に誓約内容と罰文を記した起請文きしょうもん誓紙せいし)としての役割も担った。
相手に誓うのではなく、それよりもさらに強い神々に誓うのである。
牛王札は熊野牛王宝印(くまのごおうほういん)が有名。

天正十年十月二十四日徳川家康発給起請文

『(天正十年)十月二十四日付徳川家康発給起請文』(神奈川県立歴史博物館所蔵)

起請文はこのように、神符の裏に誓約内容と罰文を記すことを「宝印を翻す」などと呼び、そこからさらに血判を添えた。

天正十年十月二十四日徳川家康発給起請文に釈文を入れてみた

「当宮修正牛玉札、香水、幷扇子祝着之至候」
当宮修正の牛王札(ごおうふだ)、香水、並びに扇子祝着の至りに候
『(年次不明)正月二十三日付斎藤龍興書状』

菩薩(ぼさつ)・縁仏(えんぶつ)

 サンスクリット語でいう本来の菩薩の意味は、悟りを得ようとする衆生のことだが、日本における進物の「菩薩」は主に「弥勒菩薩(みろくぼさつ)」などを彫った小さな仏像のことである。
縁仏(えんぶつ)も同じようなニュアンスで古文書に登場する。

御縁佛

『信濃龍雲寺宛慶長三年四月二日付仙谷秀久寄進状』

画像の文字は「御縁佛」
「今度奇特成 (闕字)御縁仏至来、寔過分至極存候」
このたび奇特なる御縁仏到来、誠に過分至極に存じ候。

闕字(けつじ)についてはこちらの記事をご参照ください。
関連記事:【古文書入門】解読の基本を織田信長の書状から学ぶ(「闕字とは何か」)

大麻(おおぬさ)・小麻(こぬさ)・熨斗鮑(のしあわび) 一折

 大麻(おおぬさ)小麻(こぬさ)は神事において祓いに使う道具のこと。

熨斗鮑(のしあわび)はアワビの肉を薄く剥ぎ、長く伸ばして干したものを熨斗(のし)として使用したもの。
古くは儀式用の肴に用い、のち祝儀の贈り物に添える風習となった。

「祈禱之祓太麻幷熨斗鮑三折到来、遠路懇情喜入候」
祈祷の祓(はらい)の太麻(おおぬさ)並びに熨斗鮑(のしあわび)三折到来、遠路の懇情喜び入り候。
『伊勢慶光院宛(天正十年)四月十五日付織田信長黒印状』

屏風(びょうぶ) 一隻(いっせき)

 部屋の仕切りや装飾に用いる調度品の一種。
木の枠に小さなふすまのようなものを数枚つなぎ合わせて折り合わせた構造。

「屏風一雙(隻)絵鷹、贈給候」
屏風一隻、絵は鷹、贈り給い候
『山城本能寺宛(永禄十二年)三月五日付織田信長書状』

香水

 油状や固体の香料をアルコール(酒精)で溶解した溶液のこと。
日本では古来から宗教的な用途、あるいは薬用として用いられた。

「当宮修正牛玉札、香水、幷扇子祝着之至候」
当宮修正の牛王札ごおうふだ、香水、並びに扇子祝着の至りに候
『(年次不明)正月二十三日付斎藤龍興書状』

沈香・沉香(じんこう) 一包(いっぽう)

 香木の一つでジンチョウゲ科ジンコウ属の常緑高木から採取した香料のこと。
特に品質の良いものを伽羅(きゃら)と呼ぶ。
古くは推古天皇3年(595年)に淡路島に漂着したと伝わる。

「仍沈香一包、贈給候」
仍って沈香(じんこう)一包いっぽう、贈り給い候
『山城天龍寺妙智院策彦周良宛(天正元年)九月八日付織田信長書状』

薫物・炷物(たきもの)

 いろいろな香を合わせて作った煉香(ねりこう)のこと。
香をたいてその香烟こうえんを衣服、頭髪、部屋などにしみこませて楽しんだ。
沈(じん)・白檀(びゃくだん)・丁字(ちょうじ)などの香を粉末にして煉り合せた。

「殊御作薫物幷唐墨、従両御所様拝領」
殊に御作の薫物並びに唐墨、両御所様より拝領
『勧修寺晴右宛(天正三年)九月十八日付織田信長黒印状』

薬・藥(くすり) 一包

「香薷散、愛洲藥、腫物入藥、口中藥、耳瘡藥等一包宛遣之、又松平和泉守方へ書狀事傳了」
香薷散こうじゅさん、愛洲薬、腫物入薬、口中薬、耳瘡薬等一包、これを宛て遣わし、また、松平和泉守いずみのかみ方へ書状を言伝おわんぬ
『永禄九年二月六日条言継卿記』

まとめ

 ご覧いただきありがとうございました。
数え方については他にもバリエーションがあるでしょうが、今回調べた史料から確認できたもののみを載せました。

これにて進物シリーズは完結となります。
他にも頻繁に登場する進物を見つけましたら、随時更新するつもりです。

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実際に解読した古文書の記事集

参考文献:
奥野高廣(1988)『増訂 織田信長文書の研究 上巻』吉川弘文館
奥野高廣(1988)『増訂 織田信長文書の研究 下巻』吉川弘文館
奥野高廣(1988)『増訂 織田信長文書の研究 補遺・索引』吉川弘文館
山本博文,堀新,曽根勇二(2013)『戦国大名の古文書<東日本編〉』柏書房
山本博文,堀新,曽根勇二(2013)『戦国大名の古文書<西日本編〉』柏書房
小和田哲男(1973)『戦国史叢書6 -近江浅井氏-』新人物往来社
小和田 哲男(2010)『戦国武将の手紙を読む』中公新書
山科言継(1915)『言継卿記 第四』国書刊行会
岡本良一(1970)『戦国武将25人の手紙』朝日新聞社
(2020)『八木城と内藤氏-戦国争乱の丹波-』南丹市立文化博物館
(2020)『第34回特別展「明智光秀と戦国丹波-丹波侵攻前夜-』亀岡市文化資料館
(2020)『第35回特別展「丹波決戦と本能寺の変』亀岡市文化資料館
鈴木正人(2019)『戦国古文書用語辞典』東京堂出版
林英夫(1999)『音訓引 古文書大字叢』柏書房
加藤友康, 由井正臣(2000)『日本史文献解題辞典』吉川弘文館
宍倉佐敏(2011)『必携 古典籍・古文書料紙事典』八木書店
丸島和洋(2013)『戦国大名の「外交」』講談社選書メチエ
長谷川成一(1981)「鷹・鷹献上と奥羽大名小論」,『本荘市史研究. 本荘市史編さん室』, 1,pp.27-44.
農林水産省ホームページ
など

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